リーダーの土台は「自己受容」
前ナイキアジア太平洋地域人事部門長の増田弥生氏。企業のリーダーシップ開発・組織開発をグローバルな舞台で推進してきた、時代の先駆け的存在の方です。彼女の著書「リーダーは自然体」は、出版から時がたった今でも、リーダーシップについての普遍的なメッセージを伝えるバイブルとして位置づける方は少なくありません。
この本の中で増田氏が語る“実践”から学び取った言葉は、とても心に響きます。彼女は、リーダーシップの大切なベースは、今の自分を正確に理解する「自己理解」と、その自分を受け入れる「自己受容」だと言い切っていいます。この二つがうまくできないと、リーダーとして成長していくのは難しいというのです。特に「自己受容」は容易くできるものではないものの、自分を認め、信じ、許すことこそが、リーダーとしての器の大きさになり、ひいては他者を認め、信じ、許し、その成長を応援できることにつながると伝えています。
「自己受容」と聞くと、とても難しいことのように感じてしまいがちです。ただ、リーダーの方々の成長を支援させていただく中で、本質的な変容には「自己受容」は避けて通れないと感じてきたのも事実です。この「自己受容」には、一体何が必要なのでしょう。
「自己受容」の最初の一歩は、自分の強みや可能性を認め、信じ、それを活用する勇気をもつことだと思います。ところが、謙虚であることを美徳とする日本人の方は、「自分なんてまだまだ」とおっしゃる方が実に多いのです。これに対し増田氏は、「まだまだ」だと思っても、いつになったら大丈夫だと思えるかは疑わしく、見切り発車でやってみることの連続でしか、人は成長しないと語っています。確かに、完璧になってから…という気持ちは手放し、まずやってみる、そして失敗から学ぶくらいの姿勢が、私たちには必要なのかもしれません。
逆に弱い自分を認め、自分の欠点を受け入れる「自己受容」も大切です。私たちはみな、自分を良く見せたいと少なからず思うもので、無意識にできない自分を隠そうとし、別の自分を演じてしまうことは誰にでもあるのではないでしょうか。だからこそ、できない自分を受け入れることに取り組まれる方に出逢う時、心からの尊敬を覚えるものです。過去に支援させていただいたリーダーの方々の中には、自分の弱みをチームメンバーに勇気をもってさらけだし、助けを求める方が何人もいらっしゃいました。結果は決まってメンバーから多大なる信頼を得ることになります。他にも様々な方法があります。自分では弱みだと思っていることを、自分のユニークな特性として開き直って受け入れるのも一つです。受け身な人は傾聴力が高い、はっきりものを言いすぎる人は誰も言えない真実を伝える勇気ある人と見方を変えるのです。自分の弱み・欠点を改善することはもちろん大切ですが、私たちは時にその気持ちが強すぎて自己を否定し、周囲に心を閉ざしたり、攻撃的になったりしてしまうことがあるものです。それ故、こうしたアプローチでまずは自分を愛おしく見てゆくことも大切なことです。自分を受け入れることができると、肩の力が抜け、自然体の自分に戻ることができるので、行動修正もしやすくなるものです。その結果、自信を取り戻し、パフォーマンスをあげる方も少なくありません。
リーダーにとって「自己受容」は、探求する価値のあるテーマではないでしょうか。「自己受容」は、リーダーとしての器を広げることになり、周囲からの信頼を得ることにつながるのは前述の通りです。それによって、他者を認め、信じ、許し、成長を喚起できる、という増田氏の言葉を心にとめ、自分をまるごと受容できるリーダーを目指したいものです。