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『4つの約束』で対立を超える

先日、世界各国から集まるグローバルコーチのための勉強会に参加する機会がありました。テーマは「Peacebuilding」(平和をいかに築くか)。日頃、人の悩みに真摯に耳を傾け、相手がより良き方向へと向かうことを支援する、優秀なコーチ陣においても、このテーマの答えを紡ぎ出す難しさが語られました。今なお続く戦争。身近な場面においても対立が止まない時代を生きる私たち。どのように、私たちはそれぞれの立場からPeacebuildingという大きなテーマに向き合ったらよいのでしょうか。ここでは、日々の暮らしの中で、自分ができることは何か、『4つの約束』という本を参考にしつつ、皆さんと共に考えてみたいと思います。

『4つの約束』。この本は、メキシコ人のドン・ミゲル・ルイスによって書かれたものです。古代メキシコに伝わる智慧をまとめた書物として有名で、世界各国のリーダーの多くが、人生に役立つ愛読書として挙げることもめずらしくありません。Peacebuildingを考えるにあたってこの本が参考になりそうな理由は、ドン・ミゲルが外側の状況や対象の相手を変えようとするのではなく、自分との関係、すなわち自分との約束を築くことに終始一貫していることです。対立の絶えない時代に生きる私たちにとって、相いれない相手を変えることはとても難しいことです。一方、自分との関係・約束を変えることは、もしかするとそれ以上に難しいことかもしれませんが、努力できることでもあり、試みるに値することではないでしょうか。ドン・ミゲルが伝える一つ一つの智慧を紐解きながら、Peacebuildingについて学んでいきたいと思います。

ドン・ミゲルは、自分と4つの約束をすることを提唱しています。一つ目の約束は、「Be Impeccable with your word. 一貫性を持ち、愛と真実の言葉を使います」です。言葉が思考をつくるとはよく聞く言葉ですが、ドン・ミゲルは、特に、私達が自分自身に対して否定的な言葉を使うことに警鐘を鳴らしています。毎日、自分は劣っている、力がない、どうせできない、などと無意識に自分に語りかけていたら一体何が起こるのでしょう。やがてそれは、信念となり、自分を信じることができなくなったり、新しいことに挑戦する気持ちが失せてしまったりすることは簡単に想像がつきます。ひいては、他の人に対する慢性的な否定的感情が育ってしまう可能性もあります。難しい状況にある時こそ、ドン・ミゲルが言うように、自分に対して愛と真実の言葉をつかい、自分が自分の一番の味方になることを約束してみたいものです。そのことで、自分を信じられるようになり、心に平和を感じられるのかもしれません。それは、Peacebuildingへの一歩ともいえるでしょう。

二つ目の約束は「Don’t take anything personally. どんなことも個人的に受け取りません」です。誰かが私たちを批難したり、怒りをぶつけてきたり、時には暴力的に扱う時、私たちの中で様々な反応が起こるのは自然です。自分を責めてしまったり、あるいは相手に怒りをぶつけてしまったり、そういう体験は誰にでもあるのではないでしょうか。自分が危険な目にあいそうになっているのであれば、当然、その場から逃げ、自分を守る行動をとることは必要でしょう。同時に、ドン・ミゲルは、私たちに語りかけます。どのような場合であっても、人がすることはあなたとは無関係であり、あくまでもその人の思考や世界観の現れにすぎないと。つまり、必要以上に自分を責めたり、反応したり、個人的に受け取る必要はなく、相手の物語だと捉えることを約束事としてあげているのです。もしもこれができたとしたら、人がとる様々な言動に対して、反応せずに、ニュートラルに受け取ることができるのかもしれません。

三つ目の約束は、「Don’t make assumption. 思い込みや決めつけをしません」です。ドン・ミゲルは、私たちは、あらゆることに思い込みを持つ生き物である、と言っています。そして悪いことに、私たちは、それを真実だと思ってしまうというのです。日頃、周囲の人に対して、○○してくれるのは当たり前なのにやってくれない、知っていて当然なのに知らないのはおかしい、などと思うことはないでしょうか。ドン・ミゲルは言います。もしこの思い込みや決めつけを止めることができたとしたら、私たちの人間関係は全く変わってしまうはずだと。人との違いを体験する時、勇気をもって質問をすることができるかもしれません。過度な期待をすることなく、人の言動を認めることができる可能性もあるでしょう。

四つ目の約束は、「Always do your best. いつもベストを尽くします」です。ドン・ミゲルによると、この約束は、これまでの三つの約束を統合して生きるために必要なものだということです。これまでの約束が、どちらかというと心の内側で実践することに対して、この約束は、現実の世界でベストを尽くして行動していく、というイメージです。その上で、うまくできなかったら、そんな自分も認め、反省を学びに変え、またベストを尽くせばよい、というのです。完璧でなくてよい、失敗してもいい、毎回、ベストを尽くして前に進めばよい、というメッセージでもあります。

いかがだったでしょうか。ここまで書いてきて、本当の意味でのPeacebuildingは、自分との関係から始まるように感じています。自分との関係を変えることができたなら、外に映し出されている世界も違ってみえ、私たちの行動も変わるのかもしれません。4つの約束は、一つひとつがとても深く本質的なので、一つずつ、ゆっくりと取り組んでみてもよいでしょう。そのことによって、自分自身の気持ち、あり方がどんな風に変わってゆくのか、そして人との対立でどんな風に自分の言動が変わるのか、実験・観察していきたいものです。