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「動中の静」

「動中の静」という言葉を聞いたことはありますか?「動中の静」とは、日本の美学に関する概念で、動きや活動の中にある静けさを指します。例えば、茶道の動作や書道の筆遣いなど、動きの中にも一瞬の静けさがあることを意味します。武道では、激しく動いている最中でも、冷静に周囲の状況を把握することを指します。この「動中の静」が実践される時、私たちは、どのような状況にあっても、今というこの瞬間にいることができ、心穏やかに且つ集中力をもって、事にあたることができるのです。日本には昔から、こうした美学が存在しているわけですが、現代を忙しく生きる私たちにとって、この「動中の静」という概念は、どのような意味をもつのでしょうか。

ここ数年、さまざまな分野で活躍するリーダーの方々に、タイムマネジメントを課題とする方が増えているように感じています。過去数十年に渡り、私たちの労働時間は増える一方で、スマートフォンやインターネットの普及により、仕事や個人生活が24時間体制になっていることもその要因です。これは、「静」と「動」でいうと、「動」のエネルギーを使うことが、より社会的に求められていると言えるのかもしれません。

もちろん、「静」を充実させる取り組みも、これまで以上に増えたのも事実です。例えば、組織ではワークライフバランスの重要性が謳われ、リモートワーク、フレックス、休暇制度の導入など、職場内のサポートシステムが充実してきています。これは、過度な「動」によって私達が電池切れしないよう、しっかり休みをとってリフレッシュし、ひいては、Quality of Life(人生の質)をあげようとするムーブメントが始まっているとも言えます。

一方で、こうした試みは、冒頭でお伝えした、「動中の静」という美学の実践とは、少し異なるようにも思えます。なぜなら、「動」のエネルギーで働き、しっかりと「静」のエネルギーで休む、という二つの切り替えによって、なんとか両方のバランスを保とうとしているように感じられるからです。もちろん、こうした試みに価値があることは間違いありません。ですが、日本人がもともと大切にしている「動中の静」という美学は、「動」の中に「静」がある、つまり、動いている中で同時に静を体験する、ということです。そういう意味で、この「動中の静」を理解するためには、下記のような問いを探求することが役立つものと思われます。

  • 忙しい真っただ中に、冷静さをもつとはどういうことなのか?
  • 対立の中で心穏やかでいるには、何が必要なのか?
  • 混沌とした状況下で、今ここに在るためには、何が必要なのか?

こうした問いを考えてみることこそ、日本に古くから伝わる「動中の静」という美学を、現代社会に活かすヒントになるのではないでしょうか。そして、こうした問いの探求によって、私達が忙しい日常の中であっても、より心豊かに生きることに一歩近づくのではないかと思っています。

では、もともと日本では、どのように「動中の静」が実践されていたのでしょう。武士は、戦闘中でも呼吸法を使って心を落ち着かせることがあったと言われています。深呼吸や腹式呼吸を行うことで、心拍数をコントロールし、冷静な判断を保つことができたということです。これを参考にすると、呼吸法は、私達が今すぐにでも実践できる「動中の静」といえるのかもしれません。これを実践していたのが、元日本の首相である安倍晋三氏です。安倍氏は、「4-7-8呼吸法」というハーバード大学発の呼吸法を実践していたことで知られています。この呼吸法は、4秒間息を吸い、7秒間息を止め、8秒間かけてゆっくり息を吐くというものです。リラックス効果があり、ストレスを軽減するのに役立つとされており、安倍氏はこの呼吸法を取り入れることで、国会での緊張状態やストレスを乗り切っていたとされています。

呼吸法は、「動中の静」を実践する一例にすぎません。皆さんにとって、「動中の静」とは、一体どのような意味だと思いますか?人によって、それは情報量が多い時こそ、余白をとりながら話す、ということかもしれません。急いでいる時こそゆっくり歩く、ということなのかもしれません。

古くから日本で大事にされてきた「動中の静」という美学が、今を生きる私たちにとってどのような意味をもたらすのか、考えてきました。先の見えない暗中模索の今という時代だからこそ、「動中の静」の実践は、私たちに、冷静さ、集中力、穏やかさを与えてくれる、大事な叡智になりうるのではないでしょうか。