これからはBoth/Andの時代

あなたは、ここ最近、ジレンマを感じて悩んだことはありますか?ジレンマとは、自分の思い通りにしたい二つの事柄のうち,一方を思い通りにすると他の一方が必然的に不都合な結果になるという苦しい立場になることです。自分の自由を尊重したい、でも家族とつながりを感じる時間も大切にしたい、という板挟みはそれにあたります。ご自身が働く組織にもジレンマはあるはずです。若手社員がいうワークライフバランスは確かに大事、でも時には自己犠牲を払ってでもがんばって成果をあげてほしいと思っている等。このように、どちらも大切だけど両方尊重するのは難しいと感じる問題は、解決策を見つけるのがとても難しく、そのジレンマに悩む人は、時代の変化に伴って年々増えているように感じています。これは、社会にどんどん新しい考え方が生まれてきているため、これまで大切にしてきた価値観だけでは収まらなくなってきている、とも言えるのではないでしょうか。
こうしたジレンマを体験する時、妥協して泣く泣くどちらかを選ぶ人もいるでしょう。また自分が大切にしたいと思っている事に強く拘るがあまり、それとは異なる事を尊重する誰かに敵対心を覚え、対立に及んでしまうこともあるでしょう。ここでは、こうしたジレンマからくる問題に対して、Either/Or(どちらか一方)という考え方ではなく、Both/And(両方)という意識を持つ新たなる可能性について、一緒に考えてみたいと思います。
アメリカで両極性の思考(Polarity Thinking®)の重要性を伝えるBarry Johnsonは、慢性的な課題へのアプローチには、Either/Or (どちらか一方)のマインドセットではなく、Both/And(どちらも尊重する)のマインドセットでアプローチすることが大切であると伝えています。Barry Johnsonによると、組織には多くのジレンマが存在しており、それらは、社員の心を悩ませる慢性的問題になっているということです。長年コンサルティングしてきたBarry Johnsonは、ジレンマを一つの解決策に収めようとするEither/Orの考え方を変え、両方がいかに補完関係にあるのかに気づき、どちらも尊重できるBoth/Andの考え方を養ってアクションプランをつくることが必要であると提案しています。
では、Both/Andのマインドを養うとは、具体的にはどういうことなのでしょうか。先にあげた、“自分の自由と家族とのつながり”というジレンマに当てはめて考えてみましょう。仮にあなたが、自分の自由も大事だけれど、同時に、家族とつながりを感じる時間も大切で、その両方を尊重することは難しいと感じているとします。例えば、自分の自由を尊重して一人旅をすると、家族から不満はでるし、自分でも罪悪感を持ってしまうとします。だからといって、家族との時間ばかりを優先していると、窮屈に感じてしまいます。次第に、どちらか一方を選ばなければならないという気持ちが増し、そのジレンマに苦しむことになるのです。
ここで大切になってくるのが、Both/Andの考え方です。一見相いれないと感じられる二つは、大きな視点で“対”としてみてみると、互いに補完関係があると気づくことができます。つまり、自分が自由を感じる事と家族とのつながりを持つ事は、自分と家族が本当の意味で幸せになるためには、両方必要なことだという視点です。自分がある程度自由を感じることができて幸せであれば、家族に対して感謝の気持ちが生まれるかもしれません。家族とのつながりの時間をある程度確保することで、自分の自由な時間がより貴重なものと感じられ、その意味合いももっと深まるかもしれません。互いは補完関係にある。そうなると、問いは、どちらを選択したらいいのだろう?ではなく、どうしたら両方を尊重できるのか?という問いに変わるはずです。問いを変えることは、新たな可能性を探求する気持ちをもたらすため、それだけで楽になる人もいるかもしれません。その上で、自分の自由と家族とのつながり、それぞれを尊重するアクションは何か、両方考えてみる必要があります。また、どちらか一方に偏り過ぎている場合、もう一方を尊重するために何をしたらよいのか?定期的に考えることも大切です。継続的に二つが共に尊重されるよう意識的になることが、Both/Andの考え方には必要なのです。
では、もう一つの例である、“ワークライフバランスの尊重と成果をあげるための努力”というジレンマはどうでしょう。この二つを、どちらか一方の選択ではなく、対としてみてみると納得感が生まれるのではないでしょうか。大きな視点に立ってみると、どちらも組織が繁栄していくためには必要な価値観であると言えます。組織が成果をあげられたとしても、社員が疲れ果てていれば、考えどころです。逆にそれぞれが人生を優先できる働き方を推進できたとしても、組織が成果を挙げられていなければ、社員みんなが生き残っていけるかわかりません。二つは共存する考え方であることに腹をくくり、それぞれを尊重するアクションを両方とも考えることが望まれます。また、どちらか一方が尊重されていない時は何をするべきか、そして継続的に両方が大事にされるために何が求められるのか、常に問いをもって探求することが大切になるでしょう。
これまで、Both/Andの考えを養い、一見相反するように見える考え方や価値観を対で捉えてゆくことの大切さをお伝えしてきました。時代の変化に伴い、自分とは異なる価値観を持つ人が周囲に増えてきた、と感じることもあるでしょう。そんな時、これまで自分が大切にしてきた価値観だけに固執するのではなく、遊び心をもってBoth/Andの考え方を取り入れ、違いに対応してゆくのも一つです。自分の価値観に、あえて一見相反する価値観を追加でもってみることを楽しむのもいいでしょう。正義が何よりも大事だったのであれば、少しばかり柔軟になって違いを楽しむという価値観を取り入れてみるのも面白いかもしれません。Both/Andの考え方に慣れてゆくと、視野が広がり、自分自身の器が広がることにもつながります。何より、一つの選択肢に囚われて、ストレスを感じて苦しむことから解放されるのではないでしょうか。