リーダーは“失敗”をチカラに変える
“Failure is simply the opportunity to begin again, this time more intelligently.”
– Henry Ford
あなたは自分が“失敗”をしたと感じた時、とっさにどのような反応をすることが多いですか?自分を必要以上に責めてしまい、罪悪感で立ち直るのが難しいという人もいるかもしれません。あるいは感情が先走って涙が止まらない、怒りが抑えきれず誰かを責めてしまう傾向にある人もいるでしょう。また、“失敗”したことを認められず、その場から逃げてしまったことのある人もいるかもしれません。
現在開催中のパリオリンピックでも、敗退した選手の反応は様々です。その反応に賛否両論を集めたのは柔道の阿部詩選手で、敗退後に泣き崩れ、号泣する声が会場中に響き渡って退場することさえ困難になってしまいました。よくがんばったと讃える声と、武道家としての振舞いをしてほしかったと批判する声と両方あるようですが、皆さんはどのように感じられたのでしょうか。また、昔から日本人選手によく見られがちなのは、謝るケースで、今回も多くの選手が「応援してくれた人・日本の皆さんに申し訳ない」という言葉を残しています。申し訳ないという言葉にいたたまれない気持ちになる一方で、集団意識を重んじる日本文化の現れとも言え、慎ましやかにその言葉を受け取ったという人もいらっしゃるのかもしれません。
そんな中、目をひくコメントをしたのは、男子バスケの渡邊雄太選手です。予選リーグ3戦連敗でもう後がなくなった渡邊選手は、直後のインタビューで「自分たちもしっかりディフェンスをする中で相手が自分たちを上回ってきた」と相手を讃えます。その上で、「本当にしっかり最後まで足を動かしてやりきったので、この3試合を誇りに思います」と言ったのです。試合に負けた選手から「誇りに思います」という言葉がとっさにでることに、正直はっとさせられました。もちろん、後で悔し涙にくれるのかもしれません。けれども、やってきたことに対して誇りを感じられると言えるのは、怪我をしてどん底から這い上がってきた渡邊選手の心の強さの現れのようにも感じました。
私たちが新しいことに挑戦する限り、大なり小なり必ず“失敗”を体験します。そんな時、どう反応をするのがよいのか、その正解はありません。場面や状況によっても異なるでしょう。また時が経つことで、気持ちやその意味あいも変わってくるはずです。ただ最終的に、渡邊雄太選手のように、結果だけに一喜一憂するのではなく、努力した自分を誇りに思うことができたとしたら、その後の仕事・人生によい影響を与えることができるのではないでしょうか。 皆さんが、“失敗”を負の体験として自分の歴史に刻むのではなく、これからの自分のチカラへと変えることができたら、仕事や人生にどんな可能性が開かれると思いますか。
リーダーの成長を支援する中で、ご本人が“失敗”したと感じてひどく落ち込むのを目の当たりにすることはよくあります。そんな時、次のような方法で、“失敗”をプラスに転換するきっかけづくりを支援しています。
- 「安全な環境で感情を感じる」
“失敗”したと感じたその直後は、あまりのショックで感情を止め、すぐさま次への解決策を考えようとする人は少なくありません。けれども心の奥にある気持ちは消えるどころか、かえってモヤモヤを引きずってしまうこともあります。出来事の直後は、何を感じてもOKというスペースを自分に与え、自分の感情に気づくこと、また自由にその感情を感じることも大事です。そのためには、信頼できる誰かに協力を仰ぎ、素直な気持ちをオープンに話させてもらうことが大きな助けとなります。相手がいない場合は、自分の気持ちをノートに書き記して、感じていることをすべて吐き出すのもよいでしょう。 - 「自分への共感を喚起する」
“失敗”した自分を責め、罪悪感にかられるリーダーもいます。一見、責任感のある良い反応に見えますが、強い自責の念は自分を傷つけることにも繋がります。その結果、周囲からの批判に心が砕かれたり、逆に防衛本能から強く周囲に反論してしまって結果的に自分も他者も傷つけしてしまうこともあります。そういう意味で、強い自責の念がある時は、まず初めに自分という存在に寄り添う気持ちを喚起することが必要です。そのことで自分の中に強さが生まれ、結果として余裕をもって周囲の批判を聞くことができ、本当の意味で責任がとれる場合もあります。共感性を喚起するために、自分にかけてあげたい言葉を考えるのも一つです。「“失敗”は誰にでもある」「自分なりにベストを尽くした」等、かけたい言葉は必ず心の奥にあるはずです。 - 「あえて最悪のシナリオを考え、恐れと向き合う」
時と場合によりますが、「最悪どうなってしまうことを恐れているのか?」という問いが役立つこともあります。これは、一見、恐れを助長する問いにも見えるのですが、むしろ恐れを直視することで、最悪そうなったとしてもどうにかなると腹をくくれる人も多くいます。“That’s not the end of the world(世界が終わるわけではない)”という言葉もありますが、多くを失っても、自分にできること、残されていることはまだまだあることに気づき、前を向けるようになる人もいるでしょう。 - 「責任を追う必要があるのであれば、しっかり謝罪・対処する」
批判の声に真摯に耳を傾け、自分の非を認めることも大事なことです。ただし、これは、2の「自分への共感を喚起する」を実施し、自分の中で批判されても受けとれる強さをもった上で試みることをおススメします。自分を立て直した上で、必要に応じて相手に謝ったり、責任をとるために何らかの行動を起こしたりすることは、自分にとっても周囲にとっても大切なことです。 - 「“失敗”から何を学んだのか考える」
落ち着いたところで、“失敗”から何を学んだのか、自分に問いかけることも重要です。失敗は成功の母といわれるように、“失敗”した経験には、必ずレッスンがあるはずです。後から考えると、その“失敗”がなかったら今の自分はない、と思う経験を誰もが一つや二つもっているのではないでしょうか。起こった体験が未来の自分にとってどんなベネフィットがあるのか考える癖をつけましょう。 - 「“失敗”を祝福する」
“失敗”するだけの挑戦をした自分を祝福することも大切です。この考え方に多少ハードルを感じる人もいるかもしれませんが、慣れてくると、“失敗”への免疫ができ、“失敗”=ダメなことではなく、“失敗”は自分が挑戦した証、その自分を褒めよう、と新しい意味付けをもつことができるようになります。結果として、更に新しい挑戦ができるようになったり、自己肯定感が高まったりして、プラスの方向へと転換することができるようになります。
このブログでは、“失敗”への反応は様々である、ということをお伝えしてきました。その上で、“失敗”をチカラに変えていく方法を6つご紹介しました。皆さんの中で試してみたい手法はありましたか。これからも自分が“失敗”をしてしまったと感じる体験は減らないかもしれません。それでも“失敗”をプラスに変える自分へと成長することはできるはずです。そして、最終的には、本当は“失敗”という考えなど存在しないのではないかと思えるくらい、やりたいことに挑戦してゆく私たちに成長したいものです。