組織改革へのアプローチ「ポジティブデビアンス」とは
時代の変化に伴い、組織変革に取り組むべく、多大な努力をしていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。現状の問題を特定し、その抜本的な原因を探り、その解決によって変革してゆこうとするアプローチは一般的によく用いられます。しかしどうでしょう。現実には、労力をかけている割になかなか結果がでないという経験をしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのため上層部による変革が起こらないことへのフラストレーションや、現場にいらっしゃる方々の変わらなければというプレッシャーだけが増幅してくる、ということも残念ながらよくあることです。
ここでは、「ポジティブデビアンス」と呼ばれるアプローチによって、人々の行動変容を促す可能性をご紹介したいと思います。ポジティブデビアンスとは、ポジティブな逸脱という意味があります。つまり、大多数のノームから逸脱している成功者に着目することを起点としています。同じ困難を抱えながらもその問題をすでに克服している数少ない人々に着目し、彼らのやり方を分析し、それを広めることで変革していくというアプローチです。限られた期間で望む結果を手にすることができる実例報告もあるため、変革への新しい糸口として参考にされてはいかがでしょうか。
ポジティブデビアンス・アプローチの最初の事例として注目を集めたのは、ベトナムでの栄養不良対策での成功事例です。1990年にベトナムの5歳未満の子供達の約65%が栄養不足であるという問題に対して、ベトナム政府から要請を受けたSave the children(子供達を救おう)という国際NGOが、短期間で子供達の行動変容を促し、変革を成功させたという事例です。「6か月以内に目に見える結果をだしてほしい」という極めて難しいハードルを政府から言い渡される中、いかにSave the childrenは、その結果をだしたのでしょうか。
彼らはまず、栄養不足の子供達と同じように貧しい家庭環境にいるにも関わらず、栄養状態が良い子供達はいないかに着目したのです。その結果、わずかに発見された栄養状態の良い子供達には、他の子供達と異なる下記のような特徴があることがわかりました。
- ただで手に入るサツマイモの葉や、田んぼの小エビや小カニを食べていた
- 手が汚れる度にお母さんが手洗いをさせていた
- 通常1日2回の食事に対し、ただで手に入る食料を含め1日4~5回食事をしていた
この学びを得たSave the childrenは、その後、いかにこの情報を村全体に広められるのか、村人にたずねたのです。その結果、村人のイニシアチブで新しいやり方が習慣化し、結果として、7年間で5万人以上の子供達の栄養状態が改善されたというのです。
いかがでしょうか。このアプローチの特徴は、できていない問題点に着目するのではなく、数少ない成功者の特徴を観察し、そのやり方を広めて変革を進めるという点です。また、当事者自身が主体性をもって、やり方を広めて変革していくことも特徴的です。このアプローチを、行動変容が求められる組織の課題に応用すると、どんなメリットが得られるのでしょう。
- 何等かのオーソリティが出した解決策をトップダウンで進めるのではなく、当事者からでてきた答えに基づき、当事者がイニシアチブをとって広めるため、変革への全体の主体性を高められるかもしれません。
- また互いに学び合う文化も醸成できるでしょう。
- 変化が起こらないという点に着目することで起こる、上層部のフラストレーションや現場の焦りから行動することを軽減させられるかもしれません。代わりに成功事例を真似て一歩一歩進めるため、よりニュートラルな気持ち、あるいは前向きな気持ちで変革を推進できるかもしれません。
結果として、ベトナムの事例のように成果が得られる可能性が高まるかもしれません。但し、留意点もあります。このアプローチは当事者の体験・視点を大切にするため、トップダウンで解決策を広めることを重んじる組織では、進めるのが難しいかもしれません。また、正確に情報を分析するしくみがあることも必須です。
組織文化の変革には、たくさんのアプローチがあるはずです。もしも皆さんが取り組まれている変革の手法に行き詰りを感じられているのだとしたら、新たなるアプローチとしてポジティブデビアンスという手法を検討してみるのはいかがでしょうか。
参考文献
- https://en.wikipedia.org/wiki/Positive_deviance
- 書籍「Positive Deviance:学習する組織に進化する問題解決アプローチ」東洋経済新潮社2021年